素直になれたら

  • 2011/05/30(月) 00:41:00






きみのこんな表情がみれるなら、わるくない





『素直になれたら』






「試験?」
「あぁ…だからしばらくこっちには来れなくてさ」

いつになく暗い表情で物思いに耽っている様子だったので聞いてみれば、そういうことだった。日番谷は呆れ半分で言った。
「べつに一生会えねぇわけじゃないし、そんなに深刻にならなくてもいいだろ」
「1か月だぞ!?俺は冬獅郎欠乏症で死んじまう!」
どうやら本気で言っているらしい。日番谷は目を細める。そしてふっと笑うと立ちあがってソファに座る一護の頭をわしわしと撫でる。
「おまえは人間なんだ。現世での生活を大切にしろ。試験頑張れよ」
「わかってるよ。冬獅郎は平気なのか?」
「何がだ?」
「俺と会えなくて」
日番谷は拗ねたような一護をみて苦笑した。
「ばかなこと言ってないでそろそろ帰れ。俺は仕事があるんだ」
「はいはい。じゃあ冬獅郎、1か月したらまた来るよ」
そう言って頬に触れ、軽く口づけて出ていく。
一護が出て行ってから日番谷はため息を吐いた。

寂しくないのか、なんて答えは決まってる。
でもそれを告げたところで一護ともっとずっと一緒にいられるわけじゃない。それに一護の人間としての時間を奪いたいわけでもないのだ。人間であるうちは人間で。それはいつも願っている。いつまで一緒にいられるのか、という不安もあるけれど、でもいまはそばにいられる。ただその時間を大切にしていたいといまはそれだけを祈るように思っている。

「1か月か…」

自分が現世にいけば会えるのだけれど、試験なのだし勉強しているはずだ。今月は仕事でもするか、と日番谷はひとつ伸びをした。


1ヶ月後。
日番谷は仕事を定時に終わらせて自室で待っていた。
久しぶりに会えると思うと嬉しかった。
でもしばらく待っていたがなかなか一護は現れない。屋根の上で月をみながら待っているうちにそのまま眠ってしまった。

「冬獅郎」

名前を呼ばれて目を開けると、久しぶりの橙色がそこにあった。どうやら一護に抱かれているらしい。
日番谷が体を起こすと一護は頭を下げる。
「ごめんな、もっと早く来るつもりだったんだけどさ」
「べつにいいさ」
「でも待ちくたびれただろ?今日は仕事早く終わったんだな」
一護に会うために頑張って早く終わらせたのだといったら一護はどうするだろうか。たまには。


たまには素直になってもいいだろうか


「おまえに会いたかったからな」
「え?」
「だから早く終わらせたんだ。おまえだけが会いたかったわけじゃない」
そう。そばにいられる時間はとても短いのだから、できる限り一緒にいたいというのがほんとうの願い。でもそんなわがままはとてもいえないから。
だから、せめて。


「明日は一緒にいられるんだろ?」


そういうと一護はとてもうれしそうに笑う。
この笑顔がみられるなら、たまには素直になってもいいかもしれない。
日番谷はあたたかな一護の胸に抱きついた。

久しぶりに安らかに眠れそうだ。


僕を許す事なんか、絶対に許さない

  • 2011/05/25(水) 12:17:08





もうにどとこのあたたかさは手にできないとおもってた






『僕を許す事なんか、絶対に許さない』






「日番谷ハン」

もう二度と、聞くことのない筈だった声がした。

「…市丸」

死んだのだと、聞いた。藍染を倒そうとして、逆に殺されたのだと。
だからもう二度と会う筈がなかった。
ならば、これは、

「夢、か…」

「キミに会いたかった。その想いがボクをキミに会わせてくれた」

市丸の瞳はどこまでも優しい。こんなに穏やかで優しい瞳をした市丸をみるのはずいぶん久しぶりだった。まだ反乱が起こる前、市丸はこんな瞳をしていた。ただ、時折不安そうな表情はしていたけれど。でもその表情の意味に気づけたのは反乱が終わってから。もっとはやく気づけていれば何かが変わっただろうかと何度も後悔した。

「俺も…会いたかった」

何も知らないうちに逝ってしまった。何も残してはくれなかった。形見も何もなく、ただ想いだけを遺して。

「うん。ごめんな、日番谷ハン」

「もう、いい」

「よくない」

「は?」





「僕を許す事なんか、絶対許さない」






「俺にずっと恨んでいろというのか」






「うん。ずっと許さんでいいから、ずっと覚えとって。ボクのことを忘れんで。ボクもずっとキミだけを想っとる」

「自分勝手なやつだな」

「ごめんな、でもボクはキミに忘れられるのがいちばんつらい」

わかってる、わかってるよ。俺だって、おまえの瞳に俺がとまらないことが何よりもつらかった。敵でもいいから、どうでもいい存在だなんて思われたくなかった。

「あぁ…わかった。




俺は絶対おまえを許さない」




「ありがとな」

市丸はそういってあたたかく笑う。
そして日番谷をそっと抱き締めた。
あたたかい。
ずっとこのあたたかさが欲しかった。
もうにどと手にすることはできないとおもっていた。
これが、最後。
唇を重ねると、そのまま市丸は消えていった。
日番谷は目を閉じる。





「絶対に忘れない




愛してるよ…市丸」




願わくば

  • 2011/05/24(火) 22:34:54

*『それはもう、』の一護side






きみは、ないているだろうか





『願わくば』




何かを感じた。


霊力はなくなったけれど、普通の人並みに勘ははたらく。
ふと横をみると織姫が困ったような、痛いような顔をしていた。
「どうした?井上」
「黒崎くん…言わないでほしそうだったけど…」
でも伝えなければ、彼にはみえていないのだ。自分の愛しい人をみることができなくなったら、なんて想像もできない。どれほどの痛みだろうか。体の傷は治せるけれど、心の傷は癒せない。さっぱりした顔をしているけれど、でも時折何かを探すように空に目がいっていることを知っている。それを見るたびに切なくなる。
それにあの少年は泣いていた。
決して他人に弱みをみせないようにするあの少年が。
義骸に入れば会うことはできる。
それはわかっていた。でも戦う彼を一護はもう護る術がない。それに耐えられるはずがないのだ。これ以上危険なことに巻き込まれず、人間として生きていけばいい、とルキアも言っていた。それが死神たちの考えのようだった。その証拠に死神たちは誰も現れない。
でも彼だけはべつだ。だって彼は、


一護が唯一愛すると決めたひと


織姫は強い瞳で一護をみた。

「さっき、冬獅郎くんがいたの」
「…え?」

一護は戸惑った表情をした。
この1カ月、死神とは離れた世界で生きていた。そこへ突然あらわれた名前に、急に胸が苦しくなる。

彼を忘れた日なんてなかった。

不器用で、意地っ張りで。
他人の前では弱みをみせられなくて。
ただひとり自分の前でだけは泣いてくれた。彼の涙を拭ってあげられるのは自分だけだった。
いま彼は泣けているのだろうか。
泣く彼の隣に誰かいるだろうか。
誰かいてほしいと思う反面、自分の前以外で泣かないで欲しいと思う。
彼は傷ついているだろうか。
何も言わずに決めてしまった。


どうしても許せないのならば許さなくていい。


だから自分のしたことに後悔はない。でも、それでも、もういちど逢いたいと願ってしまう。あの強い瞳も、細い体も、やわらかな髪も、何もかもが愛おしい。ただひとりと決めた。生涯ただひとり彼を愛すと。
でももう彼をみることも、声をきくこともかなわない。
傷ついた彼の隣にいることすらできない。


「言わないで欲しそうだったけど、でも、やっぱり伝えなくちゃと思ったの。黒崎くん…冬獅郎くん、泣いてたよ」
「そっか…」


ごめんな、冬獅郎


ほんとうは、隣にずっといたかった。
君を護りたかった。
でももうそれはできないから。



願わくば、



願わくば君がひとりで泣くことがないように






「いつか俺が死んだら会えるかな」
そうぽつりとつぶやくと、織姫が泣きそうな顔でいった。
「そうしたら、ずっと一緒にいられるよ、きっと」
「…だと、いいな」
いつか、いつの日にか。
だから、いまは、



またね、と別れたい




たとえ二度と会うことができなくても、




信じていたいから




愛してる



また、会おう









それはもう、

  • 2011/05/24(火) 20:07:27


ゆめがあったんだ



『それはもう、』




一護がすべての霊力を失ったと聞いたのは、すべてが終わったあと、ベッドの上でだった。

「一護はすべての霊力を失ったそうです。藍染を倒す力を得る代わりに…」
「…そうか」

心は思いのほか凪いでいた。一護はそういう選択をする。そういう奴だ。そういう一護を好きになったのだから。

「先日霊力が消失するのを朽木が確認したそうです」
「そうか…ありがとう、松本」

淡々と話してはいるがきっと言いづらかっただろうに。
日番谷はゆっくりと目を閉じた。






ある日、日番谷は現世を訪れた。
一護をみつけ、近寄っていく。
でも、もう。





この声はとどかないけれど





こんなにも、近くにいるのに。
手をのばせば、とどくのに。
でも、もう彼の眼が自分をみることはなくて。


一護のそばにいた織姫がこちらをみた。
日番谷はゆっくりと首を振る。
一護が笑って生きているのをみたかっただけだから。
だから、もういいんだ。
ほんとうは





ずっと隣にいたかったけれど





それはもう、かなわないゆめ。








頬をあたたかなものが流れる。
日番谷は涙をぬぐってその場を立ち去った。






さよなら